今回初の開催地となった台中市は人口約280万人を擁する台湾第2の都市であり、交通・経済の中核としての役割を担っています。温暖な気候と豊かな自然環境に恵まれ、多数の大学や研究機関が集積する教育都市としての一面も持ちます。今回、その台中の中心部に位置する國立臺中科技大學を舞台に、「Startup Weekend 彦根」の第3回が開催されました。台湾での初開催となる本イベントは、国境を超えた協働とイノベーション創出を目的とし、日本および台湾からの参加者が3日間にわたって共創に挑みました。
■概要
日時:2025年6月6日(金)〜6月8日(日)
会場:國立臺中科技大學
参加人数:38名(日本からの参加者18名、台湾側の参加者20名)
ファシリテーター:岩城良和
オーガナイザー:山下悠(リード)、元木昭宏、髙地耕平、浅野貴々、宮嶋優志、服部雅大、近藤衣里加、永原尚大、馬場貴光
サポーター:李嗣堯、葉東哲
■特別ルール
今回のStartup Weekendでは、日本人と台湾人が必ず1人は入る混合チームのみ組むことができるルールにしました。日本人だけ、あるいは、台湾人だけのチームを結成することはできません。また、会場内でのコミュニケーションは原則として日本語で行うこととしました。
DAY 1
会場は台中市の中心にある國立臺中科技大學です。Startup Weekend 彦根 vol.1と vol.2が開催された滋賀大学と学術交流協定を結んでおり、これまで多くの学生が互いのキャンパスを行き来してきました。滋賀大学から参加した学生にとっては、かつて一緒に学んだ留学生の母校を訪れるチャンスに。台湾から参加する学生にとっては、かつて留学していたキャンパスでともに学んだ懐かしい仲間と再会する場になりました。国を越えた絆が、今回のStartup Weekendをいっそう特別なものにしてくれたのです。
18:15 懇親会
日本より一足早く梅雨入りした台中市。幸い当日は雨に見舞われませんでしたが、湿度が高く蒸し暑い気候に日本から長旅を経て到着した参加者はすでにヘトヘトの様子。それでも、開場とともに徐々に表情がほぐれ、Startup Weekendでは恒例のピザを囲んで台湾と日本の参加者が和やかに交流を深めていきました。台湾側は学生が中心でしたが、日本からの参加者の年齢層は10代から60代まで幅広く、多様なバックグラウンドを持つメンバーが一堂に会しました。これから始まる54時間の共創に向けて、期待と緊張が入り混じる特別な時間となりました。
19:00 ファシリテーション
今回のStartup Weekendのファシリテーターを務めていただくのは、全国を巡る熱血ファシリテーターの岩城良和さん。Startup Weekendの3日間をどのような流れで進めていくのか、Startup Weekendのコアとなる精神をストレートに、そして熱く参加者に語りかけます。
19:20 ハーフベイクド
アイスブレイクとして定番の「ハーフベイクド」では、ランダムに選ばれた2つのキーワードを掛け合わせて即興でビジネスアイデアを創り出します。「マンゴー」「タピオカミルクティー」「眼科」など台湾らしいユニークな言葉が飛び出し、大盛り上がり!思いがけず英語でプレゼンするチームも現れ、海外開催ならではのチャレンジ精神と面白さが際立ちました。
20:00 1分ピッチ・チームビルディング
DAY 1のメインイベントがやってきました。自分が持ってきたビジネスのアイデアを1分間でピッチする時間です。台湾側の参加者は言葉のハードルをものともせず、ユーモアを交えながら念入りに練り上げたアイデアを堂々と発表しました。ピッチしたい人全員のピッチが終わると、印象に残ったピッチに投票をしてもらいます。
ピッチ終了後の投票を経て7チームが結成されましたが、自分のアイデアに強い思い入れを抱いていた参加者が多かったためか、チームビルディングは最後まで難航。どうしても譲れない思いを胸に残り時間ギリギリでの「追加ピッチ」でチーム結成を試みる参加者も現れるなど、白熱した展開となりました。
21:00 会場クローズ
それぞれの想いに共感した仲間が集まり、3日間をともに活動するチームが結成された後は、日本から来た参加者の多くは國立臺中科技大學の近くの夜市へ繰り出しました。台湾側の参加者が紹介してくれたグアバやタピオカミルクティーなどを片手に、地元ならではの夜の風情を存分に味わい、台中の夜を満喫しました。
DAY 2
國立臺中科技大學の授業が開始される時間に合わせて8時に開場しました。日本人参加者の多くが泊まっていたホテルから会場までは歩いて20分・バスで10分ほどですが、バスに乗るつもりだった参加者はバス停の場所や乗り方が分からず一苦労。しかし、中国語を話せる仲間の助けを借りて無事到着し、会場近くの屋台で朝食を買ってから本格作業がスタートしました。10時からの岩城さんのファシリテーションが始まる前からアクションを開始したチームが多く、まずは課題の掘り起こしからスタートするチーム、いきなり街中でのヒアリングに出かけるチーム、Webアンケートを作成してSNSで拡散するチーム、プロトタイプ開発に着手するチームなど、動きは様々。
昼食時は台湾料理のお弁当をはじめ現地のお菓子やドリンクを囲んでじっくり味わう予定でした。しかし実際には、どのチームも作業に没頭したまま手を止めることなく、ノートパソコンを片手にお弁当をほおばる姿があちこちで見られました。台湾ならではの風味豊かな料理がテーブルに並ぶ中でも参加者たちの集中力は揺るがず。限られた時間を最大限に活用しようとする熱意が食欲さえも後回しにするほどの本気モードでした。
14:00 コーチング・セッション
DAY 2のメインイベントはコーチング・セッション。起業した経験があるか起業家を支援したことがある3名のコーチが、各チームのビジネスに対して鋭いフィードバックを投げかける時間です。しかし、ここで思わぬトラブルが発生します。会場にいらっしゃるはずだったコーチが同じ日に台北で行われていたスタートアップイベントに参加されることが急遽決まったため、オンラインでのコーチングやスケジュールの調整が行われました。そのため、オーガナイザーの山下さん・髙地さん、ファシリテーターの岩城さんが臨時コーチとして加わり、時間の制約をものともせず的確なアドバイスをチームに届けてくれました。
■コーチ
邱 世偉 様(ALION株式会社 CEO)
小寺 毅 様(みずのみず株式会社 代表取締役CEO)
林 真之 様(株式会社LightNow 代表取締役)
17:00 会場クローズ
コーチングが終わると、参加者たちは「本当にこのビジネスに顧客はいるのか?」「収益モデルは成立するのか?」「方向転換(ピボット)は必要か?」といったテーマでディスカッションの時間に入りました。短時間で方向性を見極めようと白熱した議論が飛び交いましたが、すぐに会場の終了時間が。まだまだアイデアの形が見えないチームが大半。すぐ近くのカフェへ場所を移して作業を継続するチームもありました。机を囲んで熱心に意見を交わす姿は、まさに切羽詰まった真剣モード。一部のチームは夜市で食事を摂っている最中に新たなアイデアを発見し、実地でのユーザーアプローチや細かなアイデア検証に挑むなど、台湾ならではのアクションに取り組みました。
日本人参加者の多くはホテルに戻ってもロビーのテーブルで深夜まで作業を継続。撮影した写真の整理をしていたオーガナイザーの山下さんやコーチの林さんに即席のコーチング相手をお願いし、気になる点をぶつけながらピボット案を練り直す姿も。眠気を押してでも限られた時間を最大限に活用しようとするひたむきな姿勢からは、チーム全員の本気度と、この先にある成果への期待感がひしひしと伝わってきました。
DAY 3
Startup Weekendもついに最終日を迎えました。会場に顔を見せる参加者はまばらで、「徹夜明けで寝坊?」「会場の外でインタビューをしている?」「もしかしてもう帰国しちゃった?」とさまざまな噂が飛び交います。会場に残った参加者は気持ちを切り替え、最後の追い込みに全力投球。10時から始まった岩城さんのファシリテーションが終わった後も、オーガナイザーに壁打ちするチームやオンラインでヒアリングを行うチームがいる一方で、近隣の店舗にスポンサー交渉を持ちかけて現金を獲得するチームが現れるなど果敢なアクションを展開しました。昼食のお弁当そっちのけで作業する参加者が多く、会場には「最後の一秒まで成果を出し切る」という強い意志がみなぎっていました。15時からの発表に向けた熱意と緊張感はまさにStartup Weekendらしい時間でした。
15:00 最終プレゼン
54時間をかけて練り上げたビジネスアイデアの集大成、最終プレゼンテーションの時間がやってきました。今回は日本または台湾で起業された3名の審査員をお招きし、以下の3つの観点から7チームのビジネスを評価していただきました。
①検証(Validation):会場の外に出て顧客と話をしましたか?顧客の課題を解決できていますか?
②実践とデザイン(Execution and Design):MVPやプロトタイプはありますか?どんなデモを作りましたか?
③ビジネスモデル(Business Model):どのようにして成功するビジネスにしますか?独創的ですか?
■ジャッジ
篠原 豊 様(エバーコネクト株式会社 代表取締役)
張 雅婷 様(株式会社ユウゼン 代表取締役)
楊 絲甯 様(KAWAコンサルティング 代表取締役)
最終プレゼンは、まさにパッションの塊でした。MVPを一人芝居や寸劇で演じるパフォーマンスで観客を引き込んだチーム、思いがこみ上げて言葉を詰まらせながらも涙をこらえて熱弁したチーム、機材トラブルに見舞われても動じずジャッジ席まで飛び出して直接プレゼンを続けたチーム──。どのチームも54時間でカタチにしたアイデアと情熱を余すところなくぶつけ、その姿からは「本気で挑んだ証」がひしひしと伝わってきました。
自分たちのプレゼンを終えた瞬間、ほっと胸を撫で下ろすのが普通かもしれません。しかしこの日は、発表を終えたチームも、これから登壇するチームも、同じ54時間を駆け抜けた仲間たちの挑戦を心から楽しみにしている様子がとても印象的でした。ライバル同士でもあるはずなのに、会場には競い合う雰囲気よりも、お互いの努力を讃え合う温かな空気が満ちあふれていました。そして何より、どのチームの発表にもひとつひとつ丁寧に耳を傾け、優しく、しかし核心を突く質問で背中を押してくださったジャッジの皆様には、言葉では言い尽くせないほど感謝しています。皆様の励ましと示唆に富んだフィードバックがあったからこそ、参加者一人ひとりが次の一歩を踏み出す勇気を得られたのだと確信しています。
17:40 スポンサー・スピーチ
Startup Weekend彦根にスポンサーとしてご協賛いただいた、EXPACT株式会社様より髙地耕平様、株式会社ユウゼン 様より張雅婷様、株式会社ペーパル・ロスチェンジプロジェクト様より山下悠様に、参加者に向けたスピーチをしていただきました。
18:00 結果発表
ドラムロールの代わりに参加者全員が一斉に膝を叩くスタイルで、いよいよ待ちに待った結果発表の瞬間!
第3位は…ねむねむ!
Startup Weekend初参加のメンバーが2名とオーガナイザー2名で構成されたチームは、今回のStartup Weekendでは最少人数のチームでした。2日目の夜までピボットすべきかどうか悩みましたが、もともとのテーマである「睡眠」に「推し活」の要素を加えた結果、チーム内に推し活に課金しまくるユーザー2名がいたことが大きな強みに。自分たちの体験に基づいて練り上げたビジネスは説得力抜群で、そのリアルな視点がジャッジから高く評価されました。
第2位は…戀愛!
台湾人男性と日本人女性の恋愛にまつわる切実な悩みに着目し、日本人と台湾人の混合チームであることを存分に活かした恋愛アドバイスのプラットフォームを構築しました。メンバー自身が当事者としてMVPを実際に使用し、ユーザーからのリアルなフィードバックをもとに機能を磨き上げた点と、自分たちのビジネスの価値を伝えてスポンサーを獲得した行動が高く評価されました。
優勝は…マイ・ハンターライセンス!
「自己紹介をもっと面白くしたい!」という悩みからスタートしたアイデアは、個人の特性を「〇〇ハンター」というキャッチーなコンセプトでカード化し個性を引き出す自己紹介ツールへと昇華しました。演劇仕立てのデモは会場を大いに沸かせ、「あるある」に基づく共感性と企業向けBtoBモデルというビジネス性を両立した点が審査員の心をつかみ、見事に優勝を勝ち取りました。おめでとうございます!
結果発表が終わると、54時間のイベントはクロージングに入ります。Startup Weekend 彦根のオーガナイザーを代表して滋賀大学経済学部3回生の浅野貴々さんから、次回のStartup Weekend 彦根 in 台中科技大学へオーガナイザーとしての参加を呼びかけるスピーチが行われました。その後、会場には自然と笑顔があふれ、参加者全員での集合写真タイムに突入。肩を組んだりハイタッチしたりと、それぞれのやり切った表情がレンズ越しにも伝わってきました。続く懇親会では、審査員や他チームの仲間に自ら話しかけ、新たなつながりを築く姿が印象的でした。「もう一度挑戦したい」「次はもっとこうしてみよう」と、早くも次のステップを語り合う声が飛び交います。
そして運営チームも最後の一枚をパシャリ。2年前台中市内の飲食店でリードオーガナイザーの山下さんが、今回サポーターを務めていただいた台中科技大学の葉先生に言った「台中科技大学でStartup Weekendをやってみませんか?」という一言がついに現実となった瞬間です。残念ながら会場には来ることができなかったオーガナイザーの思いも胸に刻みながら、全員が達成感と笑顔に包まれた特別なひとときでした。
こうして54時間の熱狂的なイベントは無事に幕を閉じました――
と思いきや、早朝の飛行機で日本へ帰国するはずだった参加者が移動手段をなくすという緊急事態が!!Startup Weekendでできた仲間に「ミッドナイトドライブ」をお願いして台湾桃園国際空港まで送っていってもらった結果飛行機には間に合いましたが、通常なら疲労がピークのはずのこのタイミングで予定外の冒険を楽しめるのも、自由な発想とアクションを尊ぶStartup Weekendの醍醐味。台湾の夜空をオートバイで駆け抜けたあの2人のシルエットは参加者全員の胸に深く刻まれ、きっと一生忘れられない思い出となったことでしょう。
岩城さんのファシリテーションにあった「アイデアがすべてではない。行動がすべてだ」という言葉どおり、文化や言語の壁を超えて走り抜けた54時間は、参加者一人ひとりがまさに「起業家としての第一歩」を刻むかけがえのない時間でした。この出会いと挑戦が、未来のスタートアップを生み出す大きな原動力となることを、心から願っています。
【ご協賛】
EXPACT株式会社 様
株式会社ユウゼン 様
チャイナエアライン 様
株式会社ペーパル・ロスチェンジプロジェクト 様
弥生株式会社 様
G’s ACADEMY 様
【ご協力】
滋賀大学 様
台中科技大学日本研究センター 様
【イベントページ】
Peatix
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