Startup Weekend Tokyoはこれまで、フィリピン、ベトナム、中国などアジア各国で、日本からの参加者向けに日本語開催を重ね、数多くの起業家の最初の一歩を後押ししてきました。今回、新たな舞台として選ばれたのが、アジアの交差点とも言える都市・クアラルンプールです。
英語が広く通じ、多民族社会が形成されているマレーシア。とりわけクアラルンプールは、単一文化の環境では捉えにくい課題や反応を、アイデアの初期段階から掴める都市です。「海外で自分を試したい」「多様性の中でアイデアを磨きたい」──そうした想いを抱く参加者にとって、クアラルンプールはまさに実践の場となりました。写真からも分かるように、食の風景ひとつを取っても、多民族・多文化国家ならではの広がりが感じられます。
会場は、MIT Sloanと連携するトップクラスのビジネススクール、Asia School of Business(ASB)です。日本からの参加者に加え、現地からの参加者も交えた約30名が集い、国籍・文化・バックグラウンドを越えたチームで、アイデア創出から顧客検証、最終ピッチまでを一気に駆け抜けました。その熱量あふれる3日間の様子をお届けします。
■ 概要
- 日程:2025年11月21日(金)〜23日(日)
- 会場:Asia School of Business(ASB)
- 参加人数:約30名
- ファシリテーター:中本 卓利
- オーガナイザー:遠藤 昌紀、齋藤 信、藤居 海好、山下 美早貴、Summer Lean Wei En
- ご協賛:株式会社 天地人、株式会社 Bee Informatica、Atfreaks Limited
- 日本全国・通年スポンサー:弥生株式会社、G’s ACADEMY、株式会社 eiicon
【Day 1】
イベント開幕前には、任意参加プログラムとして、オーガナイザーの山下さんが勤務する現地スタートアップ「Soft Space」の見学ツアーを実施しました。海外スタートアップで働くリアルな姿や最新の決済ソリューション事例に触れ、グローバルな働き方やキャリア構築のヒントを得られる、貴重な機会となりました。

そして、気づけば夕方。いよいよ幕開けです。今回の会場であるAsia School of Business(ASB)は、洗練されたキャンパスと開放感のある空間が印象的。都市・クアラルンプールの喧騒から少し距離を置いたこの場所に、日本とマレーシアから、多様なバックグラウンドを持つ参加者たちが集まりました。

会場オープンと同時に、参加者が続々と到着しました。今回はフライトの遅延や乗り継ぎトラブルといった大きな混乱もなく、全員が無事に合流。参加者を迎えた会場で待っていたのは、現在クアラルンプールから青森へ留学中のオーガナイザー、Summerさんです。今回のStartup Weekendの開催にあわせ、遠路はるばる現地まで駆けつけてくださいました。
まずはおなじみの懇親会からスタート。ピザとドリンクを片手に、「Startup Weekendに参加するためにマレーシアまでやってきた」という共通点だけで、初対面とは思えない一体感が、すでに会場に漂っていました。なお、イスラム教国家であるため、ドリンクがノンアルコールである点は、いつもとは少し違うポイントです。
懇親会が一段落し、いよいよプログラム本編が始まりました。まずは、会場をご提供いただいた大学関係者よりご挨拶。これまで多くの新しい価値を生み出してきた日本からの参加者が、クアラルンプールという地で新たなチャンスを掴み、スタートアップとして一歩を踏み出す可能性について、シリアルアントレプレナーであるご登壇者から力強いメッセージが語られました。

アイスブレイクはおなじみの「Half Baked」。ランダムに分けられたチームで、即興のアイデア出しと発表に挑みます。リピーター参加者が多いこともあり、短時間にもかかわらず、どのチームも完成度の高いアウトプットを披露。会場には笑いと拍手が絶えず、初日とは思えないほどの盛り上がりを見せました。

そして、その流れのまま1分ピッチへと移行しました。今回は全員参加の強制ピッチ形式で、次々とアイデアが発表されていきます。多民族社会であるマレーシアならではの課題に着目したもの、海外生活や移動の中で感じた不便さを切り取ったもの、さらには旅行市場を見据えたものまで、マーケットも視点も実に多様な発想が並びました。中には、幼い子どもとともに参加した家族によるピッチも見られ、この場が年齢や立場を超えて挑戦できる、開かれた環境であることを象徴する光景となりました。
すべてのピッチが終わると、投票タイムへ。共感を集めたアイデアを軸に、チームビルディングが進んでいきます。
最終的に7つのチームが結成されました。Day1は、こうして無事に終了です。
とはいえ、ここで終わらないのが海外開催のStartup Weekendです。参加者の多くが同じホテルに宿泊していたこともあり、会場を離れた後も、アイデアをさらに深めるチームの姿が見られました。海外開催という非日常の空気の中で、三日間はすでに本気で動き始めていました。
また、会場からホテルに戻ると、各部屋には南国ならではのフルーツが用意されていました。「これは何だろう」「どうやって食べるんだろう」といった声が楽しげに交わされ、週末の始まりを感じさせる、和やかな夜となりました。
【Day 2】
それぞれの宿泊先で朝を迎えた参加者たちは、再び会場に集まり、Day 2が始まる——はずでした。ところが、会場にはまだ参加者の姿が見当たりません。その連絡を受け、熱を出してホテルで休んでいたファシリテーターがフロントを覗いてみると、そこには思いがけない光景が広がっていました。イスラム教徒の方々を相手に、着物姿で英語による“何かしらの営業”を展開している参加者たちの姿があったのです。
No Talk, All Action —— それがStartup Weekendの精神です。会場で議論を重ねることよりも、実際の顧客と向き合い、そのリアルな反応を得ることで、アイデアの解像度を一気に高めていきます。No Ruleが、SWにおける唯一のルール。会場が用意されているからといって、必ずしもそこに留まる必要はありません。中にはPavilion Kuala Lumpurへ足を運び、考案したプロダクトについて仮説検証を行うチームの姿も見られました。

午後になると、いよいよコーチ陣が合流し、コーチングセッションがスタートします。
■ コーチの皆様(敬称略)
- 櫻庭 康人|株式会社天地人 代表取締役社長
- 丸山 寛子|料理研究家・フルーツハンター
- 山内 杏那|ルミラス 創業者
- 森屋 Ray 大輔|レイポイント株式会社 ディレクター
- Rickson Goh|Tourplus 創業者・CEO
- 和島 祐生|sento.group 代表
- 水野 貴明|Nexus FrontierTech Ltd. Co-Founder
豊富な実績に加え、マレーシアや東南アジアでのビジネス経験、そして現地市場への深い理解を持つコーチ陣が、アイデアの方向性や市場設定、マネタイズ、実現可能性について、次々と鋭い問いを投げかけていきます。
コーチとの対話を重ねる中で、当初のアイデアを大きく見直し、思い切ったピボットを決断するチームも少なくありません。一方で、「No Rule」の精神に基づき、あえてコーチングを受けずに進むチームが存在するのも、Startup Weekendらしい光景です。コーチとしてご参加いただいた皆様には、多大なるご支援を賜りました。この場を借りて、心より感謝申し上げます。

コーチングが一段落すると、参加者の多くは疲労の色を隠せない様子でした。さまざまな角度から投げかけられる問いに向き合い、アイデアを磨き直すには、相応の思考体力が求められます。
そこで運営チームは、「マレーシアらしさ」を感じられる差し入れを用意しました。マレーシアで親しまれている菓子といえばエッグタルト。今回は定番に加え、ドリアンをはじめとした多彩なフレーバーも取り揃えました。甘い香りが会場に広がり、張り詰めていた空気がふっと和らぐ、束の間の憩いの時間となりました。
そしてタルト片手にアクションを重ねていると、気づけば夕方に。というわけで、運営チームから夕食の提供です。今回はマレーシア風の海鮮焼きそばと薬膳のお茶。ローカルフードを囲みながら、チーム間での情報交換が自然と始まります。中には、アイデアが振り出しに戻ってしまい、今夜をどう過ごそうかと頭を抱えつつ、他チームからアドバイスをもらう人の姿も見られました。
夜になっても会場の外へ検証に出かけ、追加のユーザーインタビューを行うなど、各チームがそれぞれの課題に向き合いました。会場クローズ後もホテルなどで作業を続けるチームが多く、KLの夜は静かに、しかし確実に更けていきました。

こうしてDay2は終了。翌日の最終ピッチに向け、いよいよ佳境へと突入していきます。
【Day 3】
最終日の朝。ホテルの朝食会場には、張り詰めた空気が流れていました。徹夜をしたことを誇るチームもあれば、すでにスライドは完成し、あとは練習だけだと豪語するチームもいます。中には、朝ごはんすらスキップして街に飛び出し、不在のメンバーも。泣いても笑っても最終日です。誰がどこで何をしているのか把握しきれない状況も、この日ならではの、自然な光景と言えるでしょう。
会場には、最終日ならではの静かな緊張感と高揚感が漂っていました。スライドの最終調整に追われるチーム、発表を繰り返し練習するチーム、黙々とPCに向き合うメンバー。それぞれが、自分たちの最後の仕上げに集中している様子が印象的でした。中には「気分転換だ!」と会場を飛び出し、現地の飲食店で食事をしながら作業を進めるチームも。現地料理は「基本的に、超辛いか超甘いかのどちらかだった」と、笑いながら教えてくれました。
一方で会場では、海外開催ならではの印象的なエピソードもありました。マレーシア出身のオーガナイザーであるSummerさんが、ご自宅から生のドリアンを会場に持ち寄ってくださったのです。作業の手を止め、集まったメンバーで実際に味わってみると、「思ったより臭くない」「むしろクセになる」「バニラとカスタード、アボカドを混ぜて甘く煮詰めたような味」「日本で食べたものとは、まったく違う」と、驚きと感動の声が次々に上がりました。異文化に触れるこのひとときは、張り詰めていた場の空気を自然とほぐし、参加者同士の距離を一気に縮める、印象的な時間となりました。
そして夕方、いよいよ審査員の皆さまが到着。三日間をともに駆け抜けてきた仲間たちとともに、Startup Weekendのクライマックス、ファイナルピッチが始まります。
■ 審査員の皆様(敬称略)
- 松坂 俊|TOY EIGHT Co-founder / Co-CEO
- 佐藤 創|Kentasu株式会社 Co-Founder & CEO
- Redza Shahid|シリアルアントレプレナー/ASBhive統括(Asia School of Business)
医療、教育、社会課題、テクノロジー、そして東南アジア市場に深く関わってきた審査員陣が揃い、会場の空気は一段と引き締まります。なお今回は、現地ネイティブの審査員も参加されたため、Summerさんによる同時通訳が行われました。
各チームは限られた時間の中で、課題設定、現地での検証結果、ソリューション、ビジネスモデル、そして今後の展望までを一気にピッチ。農業×観光、行動変容にフォーカスした研修、海外旅行におけるトイレ課題、週末のエンタメ不足、子育て世代の心理的負担、割り勘の不便さ、駐在者の食の悩み──テーマは多岐にわたりますが、いずれもこの場所で、この三日間を過ごしたからこそ生まれた発表となりました。
質疑応答では、ビジネスとしての持続性、ターゲットの明確さ、スケールの可能性、そして「なぜそれをやるのか」という原体験にまで踏み込んだ問いが投げかけられ、チームメンバーは真剣な表情で応えていきます。
すべてのピッチが終わり、審査を経て、いよいよ結果発表へ。
🥉 第三位:Locipe
海外のスーパーで見慣れない食材を前に立ち尽くした経験から生まれたアイデア。Locipeは、食材の写真を撮るだけでAIが解析し、ローカル食材を活かしたレシピや豆知識を提示するサービスを提案しました。特に、マレーシア在住の日本人駐在者という明確なターゲット設定と、実際のデモ検証によって示された高い関心度が評価されました。「食」を通じて異文化との距離を縮める、実用性と拡張性を兼ね備えたアイデアです。
🥈 第二位:Luxuary Toilet

海外旅行における「トイレ問題」という、誰もが一度は感じたことのあるペインに正面から向き合ったLuxuary Toilet。日本人視点で設計された、清潔で安心して利用できるトイレを観光地や公共空間に展開し、アプリを通じて利用可能にする構想が提示されました。行政や民間と連携した展開モデルに加え、収支設計まで踏み込んだ点が高く評価され、「観光体験の質そのものを底上げするインフラ」という視点が印象に残るピッチとなりました。
🥇 第一位:Cinema Weekend

「マレーシアの大学生は、週末にやることがない」──そんな身近な実感から生まれたCinema Weekendは、コスプレ衣装と学生フォトグラファーを組み合わせた、週末限定の写真撮影体験を提案しました。実際に現地で売上検証を行い、収益を上げている点に加え、日本文化をフックにしたエンタメとしての分かりやすさが決め手となりました。「新しい週末の過ごし方をつくる」というビジョンと行動の速さが評価され、見事優勝を勝ち取りました。

結果発表後には、審査員の皆さまから各チームへ講評が送られ、順位に関わらず、この三日間で得た学びや挑戦を振り返る時間となりました。悔しさをにじませるチームも、やり切った表情を浮かべるメンバーも、それぞれが確かな一歩を踏み出したことが伝わってきます。そして最後は、集合記念写真撮影へ。実はこのメンバーの背後には巨大な「A・B・S」というロゴがあるのですが、見事に隠れてしまっていたというオチです。
イベントの締めくくりは、会場を近隣の評判の良いマレーシア料理レストランに移してのアフターパーティ。笑い声が交わされ、連絡先が交換され、次の挑戦を予感させる会話があちこちで生まれていました。
こうして、Startup Weekend Tokyo Kuala Lumpur は幕を閉じました。三日間という短い時間の中で生まれたアイデアや関係性、そして一歩踏み出した経験は、ここで終わるものではありません。それぞれの場所へ戻ったあとも、この週末が新しい行動の起点となることを感じさせる、濃密な三日間でした。
そして本プログラムは、「海外でも新たな挑戦を生み出していこう」「世界に飛び出し、人生の可能性を見つけていこう」「新しい出会いを、ひとつひとつ紡いでいこう」──そんな想いに共鳴した人たちの手によって実現しました。多くの制約を乗り越えながら、自らの時間と力をこの場に注いだオーガナイザーチーム、そして海外の地でこの挑戦を成立させたすべての関係者に、改めて深い敬意と盛大な拍手を送ります。また世界のどこかで、ぜひ行動を共にできる日を心待ちにしています。

































































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