インパクトを生むのは、やはり” よそ者・若者・ばか者 “なのか?
「地元参加者ゼロ」ならではの挑戦と葛藤の3日間。

イノベーションの種は、いつだって「よそ者」が運んでくるという定説があります。 しかしただの外野が、街の課題に取り組むことは簡単ではありません。
「地元参加者ゼロ」。
それは、全員がフラットな視点で街を見れるという「武器」であると同時に、リアリティのない空論に陥りやすい「罠」でもありました。 インプットされた社会課題の数字に引っ張られ、目の前のたった一人の顧客を見失いかけたチームたち。「手段」ばかりを議論して「目的」を見失う、スタートアップ特有の死の谷が待ち受けていました。
「顧客の顔って見えてる?」「それ、本当に熱海でやる意味ある?」
コーチからの問いかけに、一度は立ち止まり、悩み、そしてまた走り出す。PCを閉じて街へ飛び出した彼らが見つけたのは、ネット検索では出てこない「生々しい熱海」の姿でした。
観光地ならではの美味しい食事と空気に癒やされ、ゲストハウスmaruyaでの合宿感がチーム力を醸成したとき、少しずつ「よそ者」は「当事者」へと変わっていきました。
「全体のレベルが上ってきているのでは?」
前回も最終ピッチ審査員を務めてくださったお二人からは、こんな嬉しい声もいただきましたが、それは苦悩と葛藤を超えたからこそ、見えてきた景色なのかもしれません。
このレポートは、その瞬間を目撃した、熱く、苦しく、そして全力で駆け抜けた3日間の記録です。
開催概要
日時:2025年11月28日(金)~11月30日(日)
参加人数:17名
会場:熱海レンタルスペース naedocoはなれ
ファシリテーター(敬称略):本田 浩之(abtribe合同会社 代表社員)
スポンサー(敬称略・順不同):EXPACT株式会社、コダワリ・ビジネス・コンサルティング株式会社
スペシャルサンクス:熱海市、一般財団法人 熱海観光局
リードオーガナイザー:大竹啓介 ヤマハ発動機グループ会社
オーガナイザー:
・六笠 雄登(一社)隠岐ジオパーク推進機構
・溝田 光志 筑波大学 理工学群 応用理工学類 3年
・髙地 耕平 EXPACT株式会社 代表取締役/一般社団法人ベンチャー投資育成研究会 代表理事/.静岡ベンチャースタートアップ協会 理事
・渡邊歩佳
・佐々木秀徒
・山崎拓人
【Day1】11/28(金)
18:00_開幕・夕食
開幕:再会と緊張、そして「化学反応」の予感
会場である「naedocoはなれ」に集まった参加者たち。オーガナイザー同士が久しぶりの再会を懐かしむ温かい空気が流れる一方で、参加者の表情には隠せない緊張が漂っていました。これから始まる予測不能な3日間への期待と不安が入り混じる、Startup Weekend独特の「よそよそしさ」がそこにはありました。
しかし、熱海名物の海鮮丼が配られ、ファシリテーター本田氏とリードオーガナイザー大竹氏によりイベントの幕が上がると、空気は一変します。 蓋を開けてみれば、参加者の半数以上がSW経験者。さらに残り半数を高校生や大学生といった若きエネルギーが占めるという、非常にユニークな構成でした。経験者の知見と学生の熱量。世代もバックグラウンドも異なる彼らが言葉を交わし始めると、会場は瞬く間に賑やかな熱気に包まれ、この週末に何かが起こる予感を漂わせ始めました。
(夕食:宇田水産)
18:45_インプットトーク
V字回復の裏側にある「衝撃の数字」
熱気が高まる中、熱海観光局の遠藤様によるインプットトークが始まりました。 スクリーンに映し出されたのは、熱海の魅力をまとめた資料と、県下随一の観光地の現実を突きつける冷徹な数字でした。
特に会場に衝撃を与えたのは、「高齢化率」のグラフです。 今回、17名の参加者は全員が熱海市外からの参加。彼らが目にしてきた「若者で賑わうV字回復の熱海」のイメージとはかけ離れた、深刻な社会課題がそこにはありました。 「ただ楽しいだけのアイデアでは、この街の課題は解決できない」。 よそ者である参加者たちの解像度を一気に高めるこの時間は、会場の空気を「観光気分のイベント」から「課題への挑戦」へと引き締めたように見えました。
19:45_1分ピッチ・チームビルド
1分ピッチ〜チームビルディング:世代を超えた結合
そして迎えた1分ピッチ。ここで輝きを放ったのは、学生たちでした。 大人たちが唸るような、等身大の「自分目線」からの課題提案。教科書的なビジネス論ではなく、彼らのリアルな感覚から生まれた言葉が、会場の共感を呼びました。
続くチームビルディングは、まさにカオスと葛藤の時間です。 似たようなアイデアを持つ者同士が惹かれ合い、熱烈な勧誘合戦が繰り広げられます。その結果、5〜6名にもなる大所帯チームも誕生。最終的に結成された4チームは、学生からベテランまで世代が見事にバラけ、多様な視点が混ざり合う理想的な布陣となりました。
チーム紹介
DIGITAL熱海

タカさん

リゾート介護

秘密結社散歩信者

21:00_宿泊会場へ
宿泊:ゲストハウスが醸し出す「合宿感」
初日の締めくくりは、会場の目の前にあるゲストハウス「MARUYA」への移動です。 ここからが、SW熱海の真骨頂。参加者全員が同じ屋根の下で過ごすことで、単なるイベント参加者という枠を超え、一気に「仲間」としての空気が醸成されます。
ラウンジスペースでは、チームごとにPCを開き、メモ帳を片手に会話が再燃。「合宿」ならではの高揚感の中、日付が変わっても会話が止まらないチームも。地域課題にも挙げられた「商店街の夜の静けさ」とは対照的に、ラウンジには尽きることのない意見が渦巻いていました。
【Day2】11/29(土)
8:00_朝食
干物の香りが告げる、試練の朝
Day 2の朝は、MARUYAのラウンジに漂う香りから始まりました。 ご飯と味噌汁のセルフサービスに加え、300円で追加できるアジの干物。グリルから立ち上る香ばしい煙が、ラウンジいっぱいに広がります。
昨夜遅くまで語り明かした興奮と、不慣れなベッドでの緊張。 多くの参加者が少し重たいまぶたを擦りながら起きてきましたが、この匂いには抗えません。 「ああ、お腹空いたな」 湯気の立つ味噌汁と、脂の乗った干物。シンプルながらも贅沢な熱海の朝食が、彼らの五感を刺激し、これから始まる過酷な1日を乗り切るためのエネルギーを胃袋に流し込んでいきました。 この時まだ、彼らは知りませんでした。この穏やかな朝食の後、自分たちのアイデアが根底から覆される試練が待ち受けていることを。
(朝食:maruya)
10:00_開場・昼食
行動か、停滞か:明暗を分けた「No Talk, All Action」
ファシリテーター・本田氏の「自由に動いていいよ」という言葉に背中を押され、チームごとの戦略が明確に分かれ始めました。「No Talk, All Action(議論より行動を)」の精神を体現し、すぐさま会場を飛び出すチーム。一方で、ラウンジに留まりPCとにらめっこを続けるチーム。前夜の勢いを保っているチームもあれば、一晩寝かせたことで迷いが生じ、停滞前線が漂うチームも。
外へ飛び出したチームを待ち受けていたのは、熱海の「リアル」でした。 観光客でごった返す熱海銀座商店街でのヒアリングは、容易ではありません。さらに、熱海特有の「急な坂道」が彼らの体力を奪います。検証のために自転車で坂を駆け上がり、転倒して腕や服を派手に擦りむいて帰ってきた参加者もいました。その傷跡は、単なる怪我ではなく、彼らが本気で課題にぶつかっていった「勲章」であり、これから待ち受ける波乱の予兆のようでもありました。
(昼食:宝亭)
14:00_コーチング
コーチ(敬称略):
佐々木梨華(株式会社Gensen & Co 代表取締役)
中冨 蔵 合同会社teamSEN 代表/複数社経営・アドバイザー
竹原 興紀 Film Presso THE BLUE OCEAN 代表取締役
コーチング:否定ではなく「気付き」の洗礼
そして迎えたSW名物、コーチングタイム。 ここで、参加者たちの表情が一変します。メンターとして現れたのは、創業やスタートアップの最前線を走る3名のプロフェッショナルたち。
各チーム25分間の真剣勝負。「顧客は誰?」「本当にその課題で困っている人の声を聞いたの?」 浴びせられる質問は、チームが合意形成を優先するあまり無意識に避けていた「核心」を突くものでした。
コーチたちの目には、チームが抱える根本的な問題が透けて見えていました。
・リーダーがメンバーの意見を吸い上げきれていない「組織の不全」
・あれもこれもと機能を足し算しすぎて、軸がブレてしまった「事業の肥大化」
・作りたいものが先行し、使う人の顔が見えていない「プロダクトアウトの罠」
次第に曇っていく参加者たちの表情。しかし、それは絶望ではなく、自分たちの現在地を正しく認識した証でもありました。甘い幻想を捨て、泥臭い現実と向き合う覚悟を決めるための、厳しくも温かい「愛のムチ」が会場に響き渡りました。
16:00_コーチングを受けて・おやつ
「手段の目的化」という罠
コーチングの嵐が過ぎ去った会場には、重苦しい空気が漂っていました。 多くのチームが陥っていたのは、スタートアップにおける典型的な死の谷ーー「手段の目的化」です。「マッチングサイトを作ろう」「アプリを作ろう」「イベントを開催しよう」……いつの間にか「HOW(どうやるか)」ばかりが先行し、肝心の「WHY(なぜ、誰のために)」が置き去りになっていました。
インプットトークの功罪か?
なぜ、ここまでチームは迷走したのか。その原因は皮肉にも、初日に全員の視座を高めたはずの「インプットトーク」にもあったのかも?。 とコーチ陣より指摘もされました。熱海観光局から提示されたデータは、市外からの参加者にとって強烈すぎる指針となってしまったのかもしれません。
「高齢化をなんとかしなければ」「観光価値を高めなければ」。 あまりにも巨大な「社会課題」を前に、参加者たちは解決策ばかりを語り、その裏にいる「たった一人の顧客の顔」を見失っているのでは?「君たちが救いたいのは『高齢者』『観光客』という顔の見えない属性なのか? それとも目の前で困っている『誰か』なのか?」 コーチたちの問いかけは、自ら対象を大きくしてしまった参加者たちを、この熱海の土地へと引き戻すためのものでした。
(おやつ:熱海プリン)
19:00_顧客の解像度をあげるファシリーテーション
ファシリテーター本田氏の提案
この停滞を打破すべく、ファシリテーターの本田氏が動きます。 「一度、チームではなく、メンバー個々人で『課題』を書き出してみよう」 行われたのは、あえてチームの結束を解くようなワークでした。
結果は残酷で、かつ鮮やかでした。 「あれ? 俺たち、見ている景色が全然違ったね」 これまで合意できていたと思っていたものが、幻想だったことに気づく瞬間。しかし、この「気付き」こそが最大の収穫でした。 認識のズレを修正し、より強固な一枚岩になるチーム。あるいは、妥協なき「ポジティブな分裂(ピボット)」を選び、ゼロから組み直すチームが出てくるのか?
「残り時間は刻一刻と減っていくよ」 運営陣からの愛あるプレッシャーが、メンバーとピランの再構築を急かします。ここからの時間の使い方が、明日の勝敗を分ける。焦燥感と集中力が入り混じる中、熱海の夜は更けていきました。
(夕食:Refs)
【Day3】11/30(日)
9:00_開場・朝食
Day 3の朝も、MARUYAのラウンジには干物と味噌汁の香りが漂いました。しかし、この日の空気は、前日の穏やかな朝とは明確に異なっていました。それは、昨夜、ファシリテーターの提案によって一度解体され、認識のズレを修正したチームが、迷いを捨てて駆け抜ける、研ぎ澄まされたラストスパートの匂いでした。
午前9時の開場から最終ピッチが始まる午後3時までの時間は、もはや一瞬たりとも無駄にできません。昨夜遅くまで粘ってピボットを決めたチームは、スライドの構成、デザイン、そしてプレゼンでの言葉の選び方という、「伝え方」の解像度を一気に高めます。
彼らの頭の中にあるのは、もはや巨大な「社会課題」ではありません。コーチングの洗礼と、ファシリテーションワークによって見つけ出された「たった一人の顧客の顔」です。彼ら彼女らの声が、今、スライド一枚一枚、言葉の一言一言に落とし込まれていきます。
(朝食:maruya)
12:00_勝負メシと参拝
3日間裏方として動き回ってきたオーガナイザー陣営も、最終ピッチへ向けて「勝負メシ」の調達をかねて、来宮神社へ参拝し、最終ピッチの盛会の願掛けをして参りました。
会場へ勝負メシが届くと、各チームの会話は、もはや「HOW(どうやるか)」という手段の議論ではなく、「WHY(なぜ、誰のために)」がブレていないか、そして「熱海でやる意味」があるのかという、最終確認に集中しているようでした。
ここからは、論理的な議論ではなく、情熱と決意が勝敗を分けます。審査員の顔ぶれを脳裏に描きながら、自らの熱海での3日間、そして地域課題に本気でぶつかった証を、どう伝えるか。
張り詰めた空気の中にも、互いの健闘を祈る仲間としての静かな信頼感が漂い、午後からの最終ピッチ&審査に向けて、各自が最後の英気を養いました。
(琴むすびcafe)
15:00_最終ピッチ&審査
ジャッジ(敬称略):
武藤 博昭(株式会社コモンズ 代表取締役(一社)熱海怪獣映画祭 顧問/プロデューサー)
大谷内 隆輔(コダワリ・ビジネス・コンサルティング株式会社 代表取締役)
上田 和佳 一般財団法人熱海観光局 専務理事・CEO / 公益社団法人静岡県観光協会 事業統括ディレクター
友愛団体 散歩信者
観光スポットをAIで廃墟化し、ARGで巡る

Digital熱海
メタバースで旅マエ集客に寄与

タカさん
旅のルートをAIが最適化して提案

武勇伝
高齢者が所有する別荘の維持管理を若者担うマッチングサービス

16:30_結果発表
優勝 : 友愛団体 散歩信者

17:00_懇親会
■ 懇親会:戦いの後の「ノーサイド」、そして「共犯者」へ
最終審査の結果発表が終わり、会場の空気は一変しました。 そこにあったのは、濃密な時間を共に走り抜けた者同士にしか分からない、互いへの深いリスペクトでした。
乾杯の音頭と共に、Startup Weekend熱海は「ノーサイド」を迎えます。 さっきまで鋭い眼光で審査をしていたジャッジの武藤氏、大谷内氏、上田氏も、厳しい問いを投げかけていたコーチ陣も、今は笑顔でグラスを片手に参加者の輪に加わります。
「あの時のピボット、実はヒヤヒヤして見てたよ」 「あのアイデア、もっとこうすれば実装できるんじゃない?」
ピッチの場では語りきれなかった本音のフィードバックと、ここだけの裏話が、最高の肴となって会場のあちこちで笑い声を誘います。 金曜日の夜、よそよそしく名刺交換をしていた「他人」同士は、もはやどこにもいません。そこにいたのは、熱海というフィールドで本気で課題にぶつかり合い、未来を語り合った仲間たちでした。
美味しい料理と酒を囲みながら、年齢も肩書きも、「よそ者」という垣根さえも越えて語り合うこの時間。 この懇親会で生まれた熱気こそが、今回のStartup Weekend熱海が創り出した最大の成果物なのかもしれません。 イベントはここで幕を閉じますが、ここで生まれた繋がりは、きっとこれからも続いていくことでしょう。
(夕食 太陽からあげ)
【最後に】
■ 閉幕:54時間の全力疾走の果てに
最終プレゼンを終えた会場「naedocoはなれ」には、初日の緊張感とも、2日目の焦燥感とも違う、穏やかな安堵の空気が流れていました。 審査員からの鋭いフィードバック、そして結果発表。歓喜の声を上げるチームもあれば、悔しさを滲ませるチームもありました。しかし、全てのプログラムを終え、懇親会の乾杯の音頭が響いた瞬間、会場を包んだのは「勝者と敗者」の境界線ではなく、互いの健闘を称え合う姿でした。
■ Startup Weekend熱海が遺したもの
この3日間、参加者たちは熱海の坂道を駆け上がり、汗をかき、脳に汗をかき続けました。 インプットトークで突きつけられた「課題と数字」に傾倒し、コーチングで「顧客の顔が見えていない」と痛感し、それでもなお、目の前の課題に食らいつき続けました。
ここで生まれたビジネスプランの多くは、もしかすると明日には形を変えているかもしれません。しかし、この週末で彼らが手にした真の財産は、プランそのものではありません。 それは、「答えのない問い」に対してチームで挑み続けた経験であり、世代や肩書きを超えて本音でぶつかり合える仲間の存在であり、そして何より、「No Talk, All Action」――考え込む前に一歩を踏み出す勇気です。
■ 終わりは、始まりの合図
熱海の海に陽が落ち、参加者たちはそれぞれの日常へと戻っていきます。しかし、彼らは金曜日の彼らとはもう別人です。 「よそ者」だった彼らは、もうこの街の課題を他人事とは思えない「当事者」になりました。 単なる「学生と社会人」のチームは、未来を共に創る「共創者」になりました。
これもひとえに、ファシリテーター・ジャッジ・コーチ・オーガナイザー・スポンサーの皆さんの尽力あってこそ生まれたコミュニティかと思います。本当にお疲れ様でした。そして、ありがとうございました。
Startup Weekendは、イベントが終わった瞬間こそが本当のスタートです。 この熱海で灯った小さな火種を、どう守り、どう大きくしていくか。あるいは、ここで得た熱量をそれぞれのフィールドでどう活かしていくか。 54時間の旅は終わりましたが、彼らのActionはまだ始まったばかりです。
またいつか、この熱海の地で、あるいは世界のどこかで。 一回り大きくなった皆さんと、「次なるAction」の話ができることを楽しみにしています。










































Comments are closed.