2025年に開かれた海外開催地は、ベトナム中部の都市ダナン。これまでホーチミンやハノイで開催されてきたイベントに続き、今回はベトナム第三の都市での実施となりました。ダナンは世界遺産ホイアンへの玄関口として知られ、年間約350万人の観光客が訪れる人気のリゾート都市です。人口は約127万6千人(2024年時点)で、主要産業は観光業、製造業、IT産業など。平均年齢は約32.7歳と若く、活気に満ちています。成長を続ける東南アジアのこの都市で、どのようなアイデアが生まれたのでしょうか。その様子をお届けします。
■概要
日程:2025年3月21日(金)〜23日(日)
会場:モンスターラボ ベトナム ダナン拠点
参加人数:50人
ファシリテーター:中本 卓利
オーガナイザー:朝倉 結香子・遠藤 昌紀・藤居 海好・山下 美早貴
ご協賛:株式会社 Luatsu、Monstarlab Viet Nam CO., LTD、株式会社アットウェア、G.A.Consultants Vietnam Co.,Ltd.、7 Bridges Brewing Company、Boolean Inc.
日本全国・通年スポンサー:弥生株式会社、G’s ACADEMY
【Day 0】
イベント前日は祝日ということもあり、参加者たちが続々とダナン入り。今回の宿泊先は、会場からGrabで15分ほどのPlatinum Orchid Hotel Danangです。ホテルのエントランスにはStartup Weekend一行を歓迎する横断幕が掲げられ、到着した参加者を出迎えました。

チェックイン後、早速「市場調査(という名の観光)」に繰り出す参加者も。ホテル周辺にはビーチやハン市場などの観光名所があり、Grabで20分ほど走れば世界遺産のホイアンにもアクセス可能という好立地です。韓国からの観光客が多く、街中にはハングルの看板が目立ちました。近くには韓国系スーパーもあり、食料や日用品の買い出しにも便利です。中には現地企業を訪問したり、地元レストランで新鮮な海鮮料理を囲んで懇親を深めたりするメンバーも。これからの3日間がますます楽しみになります。

【Day 1】
事前チェックインを終えたメンバー同士は、朝食会場でお互いに出会うことに。ベトナム料理は日本人の口に合うということもあって、何を食べても皆が幸せそう。笑顔で情報交換をしたり、これからピッチするアイデアについて語り合ったりと、自然と交流の輪が広がっていきました。

そして、メンバー各々の時間を過ごし、気付けば夕方に。いよいよStartupWeekendの開幕です。今回の会場は、モンスターラボ様にご提供いただきました。工業地帯の一角にありながら、運営を含め総勢70名が集える、開放感あふれる広々としたスペースです。

会場オープンと同時に、参加者が続々と到着。海外開催ならではのトラブルもあり、トランジットのミスや遅延で遅刻する方もいましたが、それでも最終的には全員が無事、日本から遠く離れたダナンに集結しました。
まずは懇親会からスタート。おなじみのピザとビールで乾杯!ただ、今回のビールは特別で、ベトナムで起業し、今回審査員も務めた 7 Bridges Brewing Company 様よりご提供いただいたクラフトビールです。

ピザは、日本人がベトナムで創業し、現地で大人気となった「Pizza 4P’s」。ベトナムを代表する飲食スタートアップから、旅の疲れを癒やし、初日のエネルギーをしっかり補給しました。

そして懇親会を終えれば、次はワークショップへ。海外開催に挑んだ参加者たちだけあって、最初から熱量が高く、ファシリテーターからの問いかけにも、会場から次々と声が上がります。今回は、日本全国各地から集まった社会人、学生、起業家、エンジニア、デザイナーなど、実に多様なバックグラウンドの持ち主が集まりました。Startup Weekend経験者の割合が高い一方で、「初めてのSWが海外開催」という参加者も。年齢や職種を超えて、それぞれが新たな挑戦への意欲を胸に、ダナンの地に足を踏み入れました。

氷は最初から存在しないかのような熱気の中、アイスブレイク「Half Baked」がスタート。今回はランダムに割り振られた8チームによる即興のアイデア作り!

リピーターの参加者が多いこともあり、どのチームの発表も完成度が高く、会場は大いに盛り上がりました。

その後、31人の参加者による1分ピッチが行われました。ピッチ率は7割を超え、参加者たちの熱意の高さがひしひしと伝わってきます。内容も実に多彩で、ベトナムならではの社会課題や、海外旅行の“あるある”をテーマにしたものなど、ベトナムをマーケットとするアイデア、日本をマーケットとするアイデアの両方が飛び出しました。もちろん中には、ベトナムのファッションを身にまとい、記憶に残るインパクトで差別化を図るピッチも。会場には驚きと拍手と爆笑が広がりました。

そして、無事にピッチが終わったあとは投票タイム。多くの共感を集めたアイデアを持つ一人ひとりが、Final Pitchへと進みます。

そしてDay1の最後はチーム作りの時間。お互いにアイデアの魅力を伝え合いながら、仲間を引き込んでいきます。

結果、11のチームが結成され、初日の公式プログラムは無事終了。ただし、会場クローズ後も各チームの活動は夜遅くまで続きました。
それで全てが終わったと思いきや、海外開催はそんなに甘くありません。なんと、初日から徹夜で活動するメンバーが続出。それもホテルの部屋ではなく、屋外で懇親しながら、現地の空気を感じながら!海外開催だからこその熱狂は、夜になっても止まることなく続いていきます。

【Day 2】
ホテルでフォーをはじめとする充実したベトナム朝食で英気を養うところからスタート!

会場がオープンし、各チームは早速ディスカッションに取りかかりました。そして何と、ベトナム在住で日本語を学んでいる方々が来場し、チームに参加することに。現地の言語が通じるようになったことで、大きなアドバンテージを得たチームもありました。

また、「No Talk, All Action!」というStartup Weekendの精神に従い、会場を飛び出していくチームの姿も。言葉や文化の壁に苦戦しながらも、ダナンの街を駆け回り、リアルな現地の声を拾いながらアイデアの検証を進めていきます。

午後にはベトナムで活躍するコーチ陣が到着し、コーチングセッションが始まります。
■コーチの皆様
平井 由紀子 様|株式会社セルフウイング 代表取締役
川村 敦 様|株式会社CROSLAN 代表取締役
伊藤 仁 様|Japan Quality Co.,Ltd 代表取締役
森 大樹 様|Capichi Inc. 代表
佐井 高志 様|株式会社ミナジン プロダクト本部 本部長
細國 敬祐 様|5E Inc. CEO






各チームは、プロダクトの実現可能性や市場性、顧客ニーズについて、コーチとの対話を通じて新たな気づきを得ていきます。当初のアイデアから大きくピボットするチームも出てきました。
そして、気付けば夕暮れ。ふと一息ついた参加者の方々から、「ところで、運営チームはどこに?」という声が会場から上がります。実は、運営チームは三日間ほぼずっと、会場の外で飲食手配に奔走していたのでした。
海外開催では、日本のように事前に料理を予約することができず、その日の状況に応じて素敵なお店を探し出し、約70人分の料理を会場に手配するという至難のオペレーションが必要になります。その大役を見事に担ってくれたのが、マレーシア・クアラルンプールで活躍する山下さん(右)、そして滋賀・長浜でスタートアップコミュニティを育てる藤居さん(左)。素敵なご飯、本当にありがとうございました。

そして、無事に会場に届いた美味しいローカルフードを囲みながら、チーム間では自然と情報交換やアドバイスが飛び交います。

夜にかけて作業はさらに白熱し、会場のあちこちでパソコンを囲んで議論する光景が広がります。ビジネスモデルの構築と並行して、市場調査やユーザーインタビューのために外に出るチームも多く、その学びをアイデアに反映させていきます。夜が遅いことで知られるベトナムでは、会場クローズ後にホイアンまで足を延ばし、現地ならではのリアルな声を集めに行くチームも。ホテルに戻ってからも、ほとんどのチームが遅くまで開発や資料作成を続けていました。


【Day 3】
最終日の朝は、徹夜明けの方も多かったようで、朝食会場が開く前、ホテルから歩いて行けるビーチで多くの参加者と出会うことになりました。なんとその日はStartupWeekend最終日に重なるかたちで、街ではマラソン大会が開催されていたようで、朝から街全体が大賑わい。海風とざわめきの中、最終日らしいエネルギーが静かに満ちていました。

そして時間が経って朝食会場がオープンすると、そこでは最後の詰めが行われていました。ホテルのスタッフの方々から「朝食時間は終わりですよ〜」と声をかけられるメンバーが続出する中、ベトナムの濃くて黒いコーヒーに練乳をたっぷり注ぎ、「最後の一杯!」と言って粘る人の姿も。

会場がオープンしても、全体の人口密度はやや控えめ。カフェスペースで静かに作業を進めるチームがいれば、街に出てユーザーヒアリングを続けるメンバーの姿もちらほら。もはや各チームがどこで何をしているのか、運営チームですら全容を把握できない。そんな状況が広がっていました。
そしてもちろん、会場に残って作業を進める一部のチームからは、明らかに「今は話しかけるな」という無言のオーラが。まさにピッチ前の集中モードです。

そして夕方、いよいよ審査員の皆さまが到着。海外に飛び出してきた五十名の仲間たちと共に、いよいよ最終ステージが始まります。開幕のご挨拶は、アオザイ姿で本気モードの二人から。気合いの入った装いに、会場の空気もぐっと引き締まりました。

そして何と、ここでサプライズが。StartupWeekend海外シリーズを長年支援してくださっている奥田浩美さんが、偶然にも別件でダナンに滞在中と判明。SNSでのやり取りをきっかけに、急遽ジャッジとして飛び入り参加していただけることに! イベントにさらなる厚みと驚きを添えてくださいました。

そして全ての準備が整いファイナルピッチがスタート。
■審査員の皆様
牛見 さおり 様|7 Bridges Brewing Company CEO
工藤 拓人 様|CastGlobal Law Vietnam 代表弁護士、株式会社Luatsu代表取締役
関 岳彦 様|G.A.Consultants Vietnam 代表
濵﨑 トキ 様|Boolean Inc. CEO
奥田 浩美 様|株式会社ウィズグループ 代表取締役

各チームは限られた時間のなかで、ビジネスアイデアの背景、検証結果、ソリューション、収益モデル、そして今後の展望までを一気にピッチ。「フライト問題」「観光課題」「失踪事件」など、テーマはさまざま。現地でのリサーチや顧客ヒアリングをもとに、ユニークな切り口からアイデアを練り上げてきました。



中には、ベトナム名物バインミーをその場で再現し、日本でのフランチャイズ展開を提案するチームも。審査員に“試食”を仕掛けるという実演型ピッチで、会場の注目を一気に集めました。

そして審査を終え、いよいよ結果発表へ!
第三位!推し旅ホーム
日本国内で預金をしているだけでは、インフレにより20年後には価値が半減する。そんな危機感から着想されたのが、「ベトナム・ダナンの不動産投資ツアー」というユニークな提案でした。背景には、2024年以降の法規制により、海外不動産投資には“指定の流れ”が必要になっているという事実があります。このチームは、そのハードルを逆手に取り、まずダナンを“好きになる”旅から始める設計を描きました。観光としての魅力と生活圏としての実感を重ねた後に、正式ルートによる投資案内を行うというステップ設計。資産運用を「数字」ではなく「感情」からスタートさせる、新しい形の投資導線が評価を集めました。

第二位!AJIMI
日本から海外に進出したい。けれど、文化も言語も異なる中で、現地にいきなり店舗を構えるのはリスクが高すぎる。そんな課題に対して打ち出されたのが、「ライブコマースを起点としたファンづくり」という着眼でした。提案チームはまず、ベトナムの消費者に向けてライブ配信を実施し、反応をリアルタイムで収集。手応えのあった商品に絞って、段階的に販路を拡大していくモデルを描いてみせました。「店舗を出す前に、ファンを育てる」という仕組みが審査員たちの心を動かしました。

第一位!Future Blend
コーヒー豆の残滓を活用して、空気汚染を解決するというユニークなアイデアを披露。開発したのは、車の排気パイプに装着するフィルター。これを購入したドライバーには、ガソリン代の割引特典が付くという仕組みです。一見すると“顧客にコストを負担させる”形にも思えますが、そこにしっかりとインセンティブ設計が組み込まれていた点、そしてプロダクトの試作段階にまで落とし込まれていた点が高く評価されました。アイデアを“アイデアのまま”にせず、行動に移したからこその勝利。おめでとうございます!

スポンサー賞(G.A.Consultants Vietnam Co.,Ltd)
「ノンラー」が掲げたのは、ベトナムの伝統文化と広告モデルの融合という挑戦。円錐形の伝統傘〈ノンラー〉に企業の広告を掲載し、収益を得るというビジネスモデルを提案しました。注目すべきは、その配布戦略。空港や観光地といった人の流れが集中する場所で、ノンラーを無料で提供することで、広告主にとっての視認性とブランド価値を最大化する設計がなされていました。観光資源と商業的発想を接続し、新たな広告媒体としての「ノンラー」の可能性を丁寧に掘り下げた、文化への敬意と実利のバランスが光るピッチが選ばれました。

スポンサー賞(7 Bridges Brewing Company)
「Ngon Map」は“空白の時間”に着目しました。近年、grabの普及によってダナンではドライバーの稼働率が落ち、待機時間が増えるという現象が生まれています。そこで彼らに「○○の場所には××の店がある」「このエリアが面白い」といった地域の声を収集してもらう仕組みを提案しました。蓄積された情報は、観光客向けのGoogle Mapとは一線を画す、“地元民の目線”で構成されたリアルなガイドマップに昇華されます。生活者としての視点から生まれる情報こそが、旅人にとって最も価値のある“発見”となる。その信念に基づいた構想でした。地元の知恵と時間を、テクノロジーの力で可視化する。静かで力強い視点が光る一案でした。

審査員の皆さまから各チームへの講評が行われ、惜しくも優勝を逃したチームも、悔しさを滲ませながらこの三日間の努力と挑戦を振り返る時間となりました。

そして、お待ちかねのアフターパーティへ。ベトナム料理を囲みながら、互いの健闘を称え合い、肩をたたき合うようにして笑い声が弾みます。特注のStartup Weekendケーキも登場し、会場は一気に祝福の空気に包まれました。ちなみにこのケーキ、運営チームが前夜、ベトナムの街を奔走して仕込みを進めた、まさに「愛と気合いの結晶」です。

三日間にわたるStartup Weekend Tokyo Da Nangは、国境を越えた出会いと挑戦の舞台となりました。ベトナム・ダナンのスタートアップエコシステムと、日本から集った仲間たちの情熱がつながり、新しい絆と可能性が、確かにここに芽吹いた瞬間でした。
そして何より、この舞台をつくったのは、決して“暇だから”ではなく、“それでもやりたい”という熱意を抱えた運営チームの存在です。本業が絶賛炎上中のメンバーもいれば、子育てや転職の合間を縫って関わってくれた人も。キックオフから数えて、もう一年近く。海外で「アイデアをカタチにする」。それは、準備がすべてであり、残りは想定外と情熱の3日間でした。
私たちは、問い続けていました。本当に意味があるのか?海外で、コミュニティを越えて、未来を構想する場を開くことは。その仮説に対する、ささやかだけれど確かな答えが、この三日間にあったと思っています。
もちろん、すべてが証明されたわけではありません。十年後、「あのイベントが転機だった」と笑い合えるかもしれないし、「マジでコスパ悪すぎたな〜」と酒の席のネタになっているかもしれない。でも、信じた気持ちは本物でした。
昨日と同じ日々をなぞるのではなく、新しい場所で、新しい仲間と出会い、まだ見ぬ未来を共につくること。そこに、行動する意味があると私たちは信じています。そしてこのStartup Weekendという場が、そんな一歩を踏み出す人にとって、変わらぬ起点であり続けることを願っています。
最後に、この挑戦を支えてくださったすべての方々に、心よりの感謝を込めて。どうかこれからも、Startup Weekendの物語と歩みに、変わらぬ応援をよろしくお願いいたします。
次に交わるその場所で、また新しい物語が始まりますように。

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